2006年02月15日

Not Search Engine Maketing, but SEM

私が行っていた大学院のコースは、日本で言うところの「職業大学院」的な色彩が強かった。つまり経営についてアカデミックなことを学ぶ一方、目的がビジネスであるため、かなり実践に近いことも学ぶ。

で、どうやって学ぶか、だ。

もちろんレクチャーもある。レクチャーは主に概論だったり、実際のビジネス環境における問題点だとかを含め、とりあえずその日のトピックを網羅するような内容になっている。レクチャーそのものも面白いのだが、それに出席しているだけでは何も学ばずに終わってしまうことになりかねない。毎回、そのトピックに関連したリーディング資料が発表されていて、それは関連論文だとか、新聞記事だとか書籍とかなのだが、学生の特権で、それらのほとんどをオンラインで入手することができる。それらの全てに事前に目を通してあることが前提(であるが、読まない生徒がほとんど)。そこをきちんと読んで質問を準備して行くと、かなりレクチャーの内容も定着するが、それまで。で、どこで何をどうやって学ぶか、というのがずばりアサイメントなのである。

日本の大学しか知らない私にしてみると、このアサイメントというのがすごくよく考えられているのである。つまり、アサイメントにはゴールしか記されていない。普通、日本の専門学校などに行くと、そのゴールを得るための手順を、Step By Step、マニュアル付きで教えてくれるのである。つまり専門学校ではそのノウハウを学ぶのである。

しかし、ゴールしか設定されていないアサイメントを前にして、学生たちは少ない時間の中で試行錯誤したり、無駄に多くの文献を読んだり、徹夜でネットサーフィンしたりするのである。一度方法論を決めたとしても、それに必要なソフトの操作方法だとかも、自分でマニュアルを紐解かねばならず、全てを自分で学んでいるのであるが、そのアサイメントを提出した瞬間、自分の中に二週間前には全く何も知らなかったはずのことについての実務レベルでの知識と経験を得ていることに気づくのだ。

例えば、こういうアサイメントもある。ERP Implementation(導入)のアサイメントは、とても実用的だった。例えば、SAPのプロジェクト計画を立てろ。要件はこうこうである、というゴールだけが設定されていて、それに合う様にコストやスケジュールをMS Projectを使って作成して、そのファイルを提出しろというのである。もちろん授業でMS Projectの使い方を習ったことなどない。アサイメントが発表になって、このソフトを持っていない人はここからダウンロードしろと指示があるだけで、後は勝手にあちこちからマニュアル引っ張り出して2週間後に提出しろと言うのである。

SAPのインターラクティブ教材を作成しろ、というのもあった。

欠損データや多言語混在のめちゃくちゃなデータをクレンジングして、R/3に移行するためにデータ変換しろ、というのもあった。どんな手段を使ってもいいということだったので、私はVB(Visual Basic)でプログラムを書くハメに陥り(それまでVBなんて触ったこともなかったのに!!)、結果、私はVBをある程度使いこなせる様になってしまった。

オンライン教材などの開発支援ソフトについてのトレーナーとなり、学生にレクチャー&トレーニングを施すというのもあった(冷や汗モノ)。私の担当ソフトはRWDというもので、私ぁーこのソフト初めて知りましたがな、という状態から、歴史も機能も強みも弱みも把握しつつレクチャーをして、1時間後には生徒すべてがこのソフトを使える状態にまで持っていかねばならないのである。つまりレクチャーのプレゼンテーション資料、トレーニング資料なども計画して作成しなければならないのである。

それ以外にも、経営レポートを書け、というのもあった。例えばこういうのである。

「あなたの会社にはR/3が既に入っているのですが、その社長が最近SEM(*)という単語をあちこちで耳にするようになっています。あなたはその社長から、どうやらSAPにもSEMに対応するソフトがあるようだが、それについてちょっとレポートを書いてくれと頼まれました。期限は○○まで。ちなみに社長は経営については理解がありますが、ITの専門用語などは理解できないと思われるので、使わないように。それから社長はレポートの細部にまで質問をして来る可能性があるので、答えられないような十分に自分が理解していないものはレポートに含めないように。以上」

(*) Strategic Enterprise Management SAP R/3には、戦略的経営管理のためのモジュールがあります。

てな課題が出されるのである。要は、SAP R/3 SEMを、会社経営者に分かるように、これが何をするためのものか、導入にどんなメリットがあるのか、そしてその問題点は、という様なことを、IT用語を使わずに熱く語れ、ということなのである。こっちはSEMに触ったことも何もないねんでー、という状態から始まって、バランスドスコアカードの権威になっちゃうしかないっ、というところまで文献を漁るのである。

こういう大学院での勉強がベースになって、現在の色々な発想に繋がっているのである。例えば中小企業向けのITサービスとして、アプリケーションホスティング+(経営)コンサルティングという付加価値付けもできるかな、ということを考えているのだ。実際、バランスドスコアカードを導入して、色々なデータがビジュアルで表示されたとしても、そこから何を読み取るかについて各人が方法論を持っているわけでもない。経営者が欲しいのは膨大なデータでもなく、A4版の紙1枚にまとめあげられた最後の最後の選択肢であったり、またはデータに裏づけされた結論だけである。ゴーかノーかの決断を出すのに必須な資料だけが必要なのである。そこで、その資料をどこからどのように引っ張って来るかについては、中小企業のCIOの誰もができるとは到底思えないのである。つまり、そこまでを外注に丸投げしてしまえっ、という発想も世の中にはあるのではないかと。

次回は「ミッション設定の重要性」について熱く語る予定。

Posted by akemi at 12:22 | Comments (0)

2005年01月06日

ERPSを大学院で学ぶということ

私は現在、オーストラリアのメルボルンにあるヴィクトリア大学というところで学ぶ大学院生である。

私のコースは、

Master of Business in ERP systems (ERPシステム専攻ビジネス学修士)

というものなのだ。このコースは12科目を3学期(一年半、又はそれ以上)かけて履修する。コアと呼ばれる必須科目は8科目ある。

Enterprise Resource Planning Systems (ERPシステム概論)
Business Process Engineering (ビジネス・プロセス・エンジニアリング)
Management of Information Technology (IT経営論)
Supply Chain and Logistics Management (サプライチェーンマネジメント論)
Organisation Change Management (組織変革経営論)
Enterprise E-Commerce (Eコマース概論)
ERP Implementation (ERP導入論)
Strategic Use of ERPS (戦略的ERPシステム活用論)

プラス4科目を選択科目の中から選ぶ。例えば、

Application Programming Techniques (ABAP) (ABAPプログラミング)
Transaction Programming Techniques (Adv ABAP) (上級ABAPプログラミング)
Client Server Technology (SAP Basis) (クライアントサーバー技術概論)
Planning and Control through ERP Systems (SAP PP) (SAP PPモジュール)
Human Resource Information Systems (SAP HR) (SAP HRモジュール)
Conputerised Accounting in an ERP Systems (SAP FI)  (SAP FIモジュール)
Information Systems Applications Development (SAP work placement) (SAPインターン)

などがある。IT関係のバックグラウンドを持つ人の多いこのコースにおいて、このカリキュラムは非常によくできていると思う。必須科目の中に、純粋な経営学(マネージメント)の科目が3つも入っている。つまり、これを学ばないと卒業できないのである。これらの授業では、パソコンを触ることが一切無い上に、ITの人間においてはかなりショッキングな内容となっている。例えば、サプライチェーンを担当している教授は、アンチERPシステムを堂々と表明している。今でも第一線のサプライチェーンコンサルタントとして活躍している彼の口から、発せられるERPシステムへの不満、警鐘。伝家の宝刀の様にERPシステムをとらえていた学生達にとっては、現実の厳しさを目の当たりにする瞬間だ。そして、組織変革経営論では、ほとんど心理学の様なことを学ばなければならない(私自身は、実は心理学専攻で学士をとっているのだが!)。リーディングしても意味がわからない。完全に門外漢でありながらも、大学院レベルの課題をこなさなければならない苦痛。その苦痛に耐える中で、これまた現実のERPシステム導入が、いかに人間に注視しなければならないかということを、幾度と無く思い知らせてくれるのだ。

そうなのだ。IT業界に勤める人間が、ITのことだけを知っていれば良いという時代は終わった。というよりも、実はそんな時代などなかったはずだ。いついかなる時でも、ITは現実の色々な業務において、色々な要素を伴いながら開発されていった。だから、その周辺知識や、人間に対する深い理解が求められていたはずだった。でも、経営に何の興味もない、いわゆるITナード(おたく)な人でも、その人の持つ深い知識と経験だけで重宝されることができたのも事実だ。このコースにいるナードな人たち(私は、そのナードにもなれない素人)の多くは、経営学を学ぶことの意義を見出せずに不平不満をぶちまける。エッセイ書く時間をSAPの技術習得にあてたいと言うのだ。でもその指摘は間違いだ。ここはディベロッパーを養成する専門学校ではない。言うなれば、会社におけるERPシステムを、俯瞰しつつ全体最適を推進し、予測される現場の混乱や抵抗を収拾し、最終目的である、“顧客の満足を引き出した結果としての利益向上”をもたらすためのキーパーソンを育てる場所、であると思いたい。

Posted by akemi at 19:04 | Comments (0) | TrackBack