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2003年02月01日

落第という素晴らしいシステム

 最初に子供たちが小学校に入った時、それぞれの子供たちの担任の先生は、それはそれは素晴らしいベテランの先生ばかりだった。

公立の小学校といっても、学校によって先生の質にバラツキがあって、若くて経験の少ない先生がごろごろいる学校もある中、うちの子供たちの行っている学校は、その地域でも良い先生がそろっているという評判の学校であった。

 特にタツミの担任の先生は、ものすごい強烈な個性を持っている先生だった。大柄のおばぁちゃん先生で、話すときは、大きな低い声で、ゆっくりと話をして下さるのだが、初めて見た時には、そのあまりの個性に、「プ激bプの先生のイメージと違う」と思ったものだ。日本的な感覚で言うと、まだ幼稚園児にあたる子供の先生は、子供たちが声をかけやすい様な優しい雰囲気がただよう様な先生の方がいいのじゃないかなー、なんて思ったりもした。しかし、私はどんどんとその先生の魅力にとりつかれて行った。

 私の予想とは裏腹に、内弁慶のタツミがあまりその先生を怖がらなかったのも意外だった。彼女はいつでも自分の周りを自分の雰囲気で満たし、いつでも大げさなジョークで周りを爆笑させた。私もその先生のジョークに涙を流して大笑いしたこともあった。あぁ、もうこの先生大好き!私もどんどんとその先生に夢中になっていった。

 ある日、たまたま時間があってプレップの教室をのぞいた時に、先生が中に入れて下さった。彼女は、タツミが一日どのように過ごしているかを詳細に私に伝えた後、クラスの子供たちが書いた作文の山を私に見せてこう言われた。「他の子供たちは、一年かけて、今はこの作文を書けるまでになっている。タツミはまだ、入ってきて間もないから、これはとっても難しいと思う。それで、私は来年もタツミをこのプレップに置こうと思っているのだが、アケミはどう思う?」

 いきなり本題をつきつけられた様に感じて戸惑ったのだが、正直言って、ABCも書けないタツミが、このままグレード1に上がれるとは思っていなかった。私は先生に、私たち夫婦も同じことを考えていたので、宜しくお願いします、と伝えてその日は帰った。

 後になってよくよく考えてみると、ちょっとタツミが可哀想にも思えてきた。仲良くなった友達は全て1年生になり、自分だけ再度プレップに残る。土曜日に行っている日本語補習校の方では、4月になれば一年生になるのだから、現地校では、とりあえずちょっと英語に慣れれば良いよね、もう一度プレップの方が彼のためよね、と軽く考えようとしても、私自身生まれて初めて遭遇する「落第」に、多少ためらわずにはいられなかった。

 新年度になって、タツミは約束通り、プレップに置かれた。大好きだった先生は、突然、退職されていた。(またいつか書きたいと思うのだが、オーストラリアの小学校は、常に財政難で、その先生も、ベテランの自分が退くことで、新年度の予算案をクリアにしたかったのではないか、私は今でもそう思っているのだが)その大好きだった先生の置き土産が、この「落第」なんだと何故か思えた。だから、絶対にタツミには落第がプラスに働くのだ、そう信じられた。

 そして、新しく入ってきた子供たちと共に、タツミの新年度が始まった。勿論字が読めない子がほとんどで、自分のカバンをかける位置を示す名札さえも読めず、どこにカバンを置いてよいかわからない子供たちだらけだった。そして、そんな中で、学校内のことを少しばかり知っている彼は、ちょっぴりお兄さん気分だったのだろう。新年度を迎えて4ケ月経た今、彼は、絵を描くのも、字を書くのも読むのも、ミックンとっても上手なんだよ、と自信をつけはじめたのだ。3月生まれの彼は、親から見ると、とても運動能力も発達しているし、頭も悪くないとは思うのだが、字を読めなかったり書けなかったりということもあり、同じ学年の子供たちに比べて、自分はいつでもオシリからくっついていくばかりだと思い込んでいた彼が、すっかりお兄さんきどりで、色々なことに自信をつけている。それを見て、あぁ、やはりタツミは、落第して良かったのだと心から思う様になった。

 オーストラリアでは落第は、あまり珍しいことではないらしい。また、あえてリーダーシップを学ばせたいという理由で、親が一学年落として入学させる、なんてこともあるらしい。何でもかんでも横並び、いや実際は、横並びの中で自分の子供だけがちょっぴり上位に居るくらいの位置を心地よく感じる日本的発想とは、完全にベクトルが違う。先日ニュースで、日本にも飛び級や、5歳児から入学を許可する様な議論がなされているというのを知ったのだが、そのコメントで、「日本は横並び意識が強いので、5歳から入学を受け入れると、全員が5歳で入学しようとするのではないか」というのがあって、私は笑ってしまった。ありえることだ。でも実際は、落第することで、自信をつけたタツミの例もある。

 周りの親がどう反応するかを子供は見ている。私がもしも、落第して恥ずかしい、と言いまわっていたら、タツミは逆に自信をなくしたかもしれない。でも、私もダンナもタツミに、「良かったね、ABCから丁寧に教えてもらえるんだよ」と喜んだし、カオルなんかは、「いいなー、私だって最初から教えてもらいたい。カオちゃん、大変なんだよ」と言ってくれた。それを聞いて、タツミは自分は本当にラッキーだと思った様だった。落第させてくれて、先生、どうもありがとう!

Posted by akemi at 2003年02月01日 18:42

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